2018年06月10日

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image1.jpeg◇「劉霞に」 谷川俊太郎

言葉で慰めることも
励ますこともできないから
私は君を音楽でくるんでやりたい
どこからか飛んで来た小鳥の君は
大笑いしながら怒りを囀(さえず)り
大泣きしながら世界に酔って
自分にひそむ美辞麗句を嘲(あざ)笑い
見も知らぬ私の「無題」に
君の「無題」で返信してくれた
そうさ詩には題名なんてなくていい
生きることがいつもどこでも詩の題名
一度も行ったことのないところ
これからも行くことはないところ
国でもなければ社会でもない
そんな何処かがいつまでも懐かしい
茶碗(ちゃわん)や箸や布団や下着
言い訳やら嘘(うそ)やら決まり文句
そんなものにも詩は泡立っている
君のまだ死なない場所と
私のまだ死んでいない場所は
沈黙の音楽に満ちて
同じ一つの宇宙の中にある

『ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家・故劉暁波(りゅうぎょうは)さんの妻で、中国当局に軟禁されている劉霞(りゅうか)さん(57)の詩集に、詩人の谷川俊太郎さん(86)が一編の詩で応えた。<言葉で慰めることも/励ますこともできないから/私は君を音楽でくるんでやりたい>。苦境に寄り添う温かい詩は、劉霞さんに届いているだろうか。 (小佐野慧太)
 劉霞さんの詩集「毒薬」は三月、書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)(福岡市)から翻訳出版された。中には、軟禁中の悲痛な心境を表現した詩がある。
 <もううんざり 見えるだけで歩けない道/もううんざり 汚れた青空/もううんざり 涙を流すこと>(「無題−谷川俊太郎にならい−」)
 末尾には二〇一六年九月の日付。ドイツ在住の作家、廖亦武(りょうえきぶ)さんの元に知人を介して届いたもので、学習ノートを切り取った紙に手書きで記されていた。
 谷川さんの詩「無題」を踏まえて作られた作品だ。谷川さんの詩は中国でも評価が高く、一一年に詩歌の民間最高賞「中坤(ちゅうこん)国際詩歌賞」を受賞している。劉霞さんも作品に親しんでいたとみられる。
 出版元が谷川さんに詩集を贈ると、お礼の言葉と共に「劉霞に」と題する詩がファクスで届いた。
 谷川さんの詩は、劉霞さんの詩を翻訳した在日中国人作家の劉燕子(りゅうえんし)さんが中国語に訳し、自身のフェイスブックで公開しているが、劉霞さんが目にしているかどうかは分からない。
 谷川さんは「(劉霞さんの詩からは)緊張感が伝わってきました。僕も詩を書いたのは、詩人の友情から。自分の詩が中国で伝わっていることへの感謝の思いもありました」。劉霞さんのことは報道で知っていたが、軟禁されている苦境は「詩集を読んで具体的に知りました」と語っている。
 書肆侃侃房の田島安江代表は「谷川さんの詩を劉霞さんが読んだら、きっと涙を流して喜ぶはず。中国ではインターネットへの規制が厳しくていつ本人に届くか分からないけれど、そんな日が来ることを願っています」と話す。
◇「劉霞に」 

言葉で慰めることも
励ますこともできないから
私は君を音楽でくるんでやりたい
どこからか飛んで来た小鳥の君は
大笑いしながら怒りを囀(さえず)り
大泣きしながら世界に酔って
自分にひそむ美辞麗句を嘲(あざ)笑い
見も知らぬ私の「無題」に
君の「無題」で返信してくれた
そうさ詩には題名なんてなくていい
生きることがいつもどこでも詩の題名
一度も行ったことのないところ
これからも行くことはないところ
国でもなければ社会でもない
そんな何処かがいつまでも懐かしい
茶碗(ちゃわん)や箸や布団や下着
言い訳やら嘘(うそ)やら決まり文句
そんなものにも詩は泡立っている
君のまだ死なない場所と
私のまだ死んでいない場所は
沈黙の音楽に満ちて
同じ一つの宇宙の中にある
 (ルビは本紙が記載)
<劉暁波・劉霞さん夫妻> 劉暁波さんは、1989年の天安門事件につながる民主化運動を指導した1人。2008年、共産党一党独裁の廃止や言論の自由を訴える「〇八憲章」を起草して拘束され、09年に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の判決を受けた。10年、獄中でノーベル平和賞を受賞。17年7月、多臓器不全のため61歳で死去。妻で詩人・写真家の劉霞さんは、ノーベル賞の授賞式直前に北京の自宅で軟禁状態に。国内外の支援者らが、精神状態の悪化などを訴え解放を求めている。
<谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)> 1931年、東京生まれ。52年に詩集「二十億光年の孤独」でデビュー。テレビアニメ「鉄腕アトム」の主題歌の作詞のほか、絵本、翻訳、脚本でも活躍。主な詩集に「世間知ラズ」(萩原朔太郎賞)、「トロムソコラージュ」(鮎川信夫賞)など。“詩壇の芥川賞”と呼ばれるH氏賞を日本で受賞した詩人の田原(でんげん)さんが、中国で積極的に作品を翻訳、紹介している。』東京新聞 6月6日夕刊



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posted by 杵屋三七郎 at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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